Se connecter僕は意気揚々としていた。
「まさかこんなにうまく黒鉄宝箱を獲得できるなんて」
罠に掛かった時のゴブリンのあの驚いた顔。そして宝箱を奪われた事に怒り、僕を追いかけてくるあの必死の形相。
僕はゴブリンの悔しがる様子を思い返し、「してやったり!」という勝利の喜びを噛みしめた。「さあ、宝箱には何が入っているかな?」
僕は落ち着いた場所まで移動すると、早速、宝箱の中身を確認する。
「お。飲料水のペットボトルが一本に、圧縮ビスケットが二個あるぞ。四人チームを組んだ他の「戦友」は食料と水不足に喘いでいたし、こうした物資が入っていることはありがたいな」
僕は貴重な水と食料をカバンにしまう。
そしてさらに宝箱に入っている物資を確認するが───。「なんだこれ……。錆びたボトル? 摩耗したナット? ヨレヨレの金属板に汚れたゴムホース。それに割れた歯車に壊れているベアリング……。ガラクタばかりじゃないか……」
僕はその場に膝をつき、ワナワナと震える。
でもそれは宝箱の中身がガラクタばかりだったことにがっかりしたからじゃない。 むしろその逆だった。「す、凄いぞ! 魔力石こそ入っていなかったけど、宝箱の中身は僕にとって「使える物資」ばかりじゃないか!」
僕は喜びに目を輝かせ、宝石でもすくい上げるかのようにガラクタを手にする。
実際、今の僕にとって、これらの部品は宝石より価値のある貴重な品だった。「他の人にとっては廃材だろうけど、修理や改造が得意な僕から見れば、これらは貴重な資源だよ」
僕は早速、宝箱から獲得した「
「これだけ材料があれば、トラックの修理がかなりできるぞ。まずはさっき開かなかったドアからだ」
僕は壊れたドアのレバーを取り外し、不具合を補修する。
この補修には壊れたベアリングから取り出した「転動体」と呼ばれる小さなボールが役に立った。 そしてレバーを元通りドアに戻すと、スムーズに車のドアが開閉することを確認した。「よし。次は開けっぱなしのリアウィンドウを塞いでおくか」
さらに僕はヨレヨレの金属板を石で叩き、形を整えると、リアウィンドウを塞ぐ。
「むしろ劣化気味の金属板だったから簡単に整形できて良かったよ」
僕はその事を「好都合だった」と前向きに捉える。
他にも今回得られた宝箱の中身を利用して僕はトラックの修繕を行った。「工具がないから応急的な処置しかできなかったけど、随分とマシになったぞ」
特に、トラックを走らせると、荷台がガタガタと煩かったが、板鉄が外れている箇所をゴムホースで縛って、固定させることができた事は、かなりのストレス軽減となった。
僕は修理を終えたトラックを見て、満足げに腰に手をあてた。
すると僕のステータスウィンドウが飛び出すように開き、通知を表示する。『おめでとうございます。あなたはスキルを獲得しました。
スキル名:【改装】(D級スキル)
低級の機械や車両、工具、部品に対して、基礎的な修理や改造を行うことができる。 ただし不安定であり、改造中に物品を破損する可能性がある』 「やっぱりだね。異世界では行動するとスキルを獲得できるんだ。それにしても一回の改造や修理で「改装」のスキルを獲得するなんて、やっぱり僕は機械修理や整備に向いているんだね」僕は獲得した自分のスキルを懐かしむように眺める。
実際、このスキルは僕にとって「長年」の相棒だった。 別世界の僕はこのスキルを使って四人チームの「改装士」として後方支援を担当していた。 異世界で「《「あんな仕打ちはもう二度とごめんだ。今回、僕の「改装」のスキルは自分の為に使う。もう誰かに利用されたりするもんか」
そう鼻息を荒くする僕は、トラックの運転席に座る。
そしてエンジンをかけて目的地に向かってトラックを走らせた。 快調に流れゆく異世界の景色を眺めつつ、僕は引き続き「
「宝箱の中身はわずかな水と食料とガラクタばかりだ!」
「こんなガラクタ、いらないよ! 水と食料をくれ!」僕はフッと鼻を鳴らず。
「貴重な「資源」をガラクタと言うなんて。その「ガラクタ」の価値に気づいているのは、どうやら僕だけのようだね」
そこで僕はふと、先ほどの黒鉄宝箱から入手した飲料水のペットボトルと圧縮ビスケットに視線を落とす。
「皆がまだ「貴重な資源」を「ガラクタ」だと思っているなら、少しの水や食料で交換することができるかもしれないな……」
僕は自分のアイディアにニヤリと口元を歪める。
「よし、今のうちにこの僕が、皆が「ガラクタ」と蔑む「貴重な資源」を全て買い集めてやる……!」
その思いには、前世───そして別次元の僕が「役立たず」「用無し」などガラクタのように扱われた悔しさも滲んでいた。
「ガラクタを舐めるなよ。ガラクタの価値、そして恐ろしさを知らしめてやる……!」
僕はギュッとトラックのハンドルを握り締めると、さらに強くアクセルペダルを踏み込み、先を行く戦友たちを追いかけた。
次々とこの場から車が逃げ出し、その数をみるみる減らしていった。 どうやら僕と軍毅、それに詩華は、他の「戦友」に比べ、車の発見が遅かったようだ。「急げッ! あの車だッ!」 それでも軍毅は残った車に乗り込もうと躍起になるが、その度に、目の前で別の戦友に車を奪われ、なかなか車を獲得する事ができずにいた。 そうしている間にも車は、みるみる戦友に奪われ、数を減らしていく。「くそッ……! このままじゃ……ッ!」 軍機が焦る。「どこかに……、どこかに車は残っていないの……」 詩華は急速に数を減らす車を成す術もなく見送るしかできずにいた。 せっかく多くの車を見つけ、脱出の糸口を見つけたと思った直後だっただけに、落胆も大きいようだった。 しかし、そんな二人に比べて、僕は余裕があった。 何故なら───。 僕は「ある場所」をライトで照らす。 そこは、雑草が生い茂り、茂みになっている場所だった。 そしてそこには僕の「目当ての物」があった。「やっぱり今回の《天使》の《審判》でも、ここにあってくれたんだね」 茂みの中にあったもの。 それは一見すると車とは思えないガラクタの山のようだったが、よく見ると古びた小型のトラックだった。「前回の《天使》の《審判》で僕が乗り込んだトラック。嬉しいな。まるで長い付き合いの相棒に再会したようだよ」 僕は、僕の相棒だったトラックが、今回も前回同様、茂みの中にあってくれて喜んだ。「軍毅、それに詩華。あそこにまだトラックがあるよ。あのトラックに乗り込もう」 僕は軍毅と詩華を誘う。 前回の《天使》の《審判》で、僕は軍毅に四人パーティーモードに誘われたが、その申し出を断り、単独挑戦モードを選んだ。 しかし、今回はそうするつもりはなかった。 その理由は、まず、《天使》の《審判》ではゴール地点にドラゴンがいて、最低でも十六人の戦友がいないと、そのドラゴンを倒せず、最初のゴール地点に到達することができない。その為、仲間が多い方が良いという事を僕が学んでいたからというのが一点目の理由。 もう一点の理由は、僕は別世界の事ではあるが、詩華に異世界で
僕は頭で考えるより先に、身体が動く。 そしてマグライトと「合体」させた銃を構えると、至近距離からゴブリンの目に向けて引き金を引いた。「ギャッウッギャウギャーッ!」 ゴブリンの目玉が弾け飛び、弾丸は眼窩を通って頭蓋骨をすり抜け、脳に達したようだった。 糸が切れた操り人形の様に力を失うと、ゴブリンはバッタリと倒れ、動かなくなった。 僕と詩華と軍毅の三人は、こうして辛うじて一匹のゴブリンを倒す事に成功した。 しかし、周囲を見渡すと、そんなゴブリンがまだ何百と飛び跳ねていた。「に、逃げましょう……ッ!」 詩華が悲鳴をあげるかの如く、提案をする。「逃げるといったって、どこに逃げるんだよッ!」 軍毅は周囲の至る所にゴブリンがいる状況に、逃げ道を見いだせなかった。「見てッ! あそこに車があるッ! あの車を使って逃げましょうッ!」 逃げ道を探して周囲を照らしていた詩華のマグライトが、一台の車を照らし出した。「こんな所(=異世界)に車があるなんて……!」「マジかよ……! なんで異世界に車が? しかし、これはラッキーだぜ!」 詩華と軍毅は異世界に車があることに驚いていた。「そうか。二人は僕と違って、まだ異世界で《天使》の《審判》を経験していないから、最初の試練が、車に乗って、七日以内に二千四百km先の補給地点へ辿り着く事だと知らないんだ」 僕は異世界に車がある事に慣れっこだったが、二人はそうではないという「経験の差」に驚く。 そこには、少しの優越感もあったが、しかし、そんな優越感に浸ってばかりもいられなかった。 その間にも、周囲ではゴブリンが戦友を殺戮しているのだ。「早く乗り込むぞッ!」 軍毅が僕と詩華を率いて車に走る。 軍毅と、そして僕と詩華は車に乗り込もうと一直線に走るが───。「どけッー!!」「なにッ!?」 軍毅が突き飛ばされる。 そして軍毅より一瞬早く、僕たちとは別の───僕たちと同じく、今回の《天使》の「《審判》」で異世界に送り込まれた「《十六世代》」の数名が車に乗り込んだ。「何をするんだ、お前らッ!」 不意を突かれ、突き
僕は尚も銃のトリガーを引く。 しかし、何度、トリガーを引いても弾は発射されなかった。「あ、あれ……? どうして?」 僕は戸惑う。 そうして僕がもたついている間に、その隙を好機と捉えたゴブリンが再び襲い掛かってきた。「何をやっているんだッ! 安全装置を解除しろッ! 訓練で散々習っただろうッ!」 僕は声の主に突き飛ばされる。そして地面に倒れ込むが、そのおかげでゴブリンの凶悪なこん棒の一撃を喰らわずに済んだ。 僕を突き飛ばしたのは軍毅だった。 軍毅は、自分が持つ銃でゴブリンを撃つ。 しかし、縦横無尽に飛び跳ねる身軽なゴブリンに命中させることはできなかった。「くそッ!」 ゴブリンが軍毅に飛びかかる。 軍毅は自分に噛みつこうとするゴブリンをマグライトを盾にして防いだが、両手がふさがり、反撃ができない状態になってしまった。「撃てッ! 早くコイツを撃つんだッ!」 軍毅の悲鳴のような命令に衝き動かされ、僕は銃の安全装置を外すとゴブリンに向けて弾を発射した。 幸い、弾はゴブリンに命中した。 しかし───。 ゴブリンは短く「ギャッ!」と叫び声をあげて軍毅から離れたが、銃で撃たれた肩に傷は負っていなかった。 銃の弾は、まるでぶ厚いゴムタイヤにでも当たったかのように弾かれてしまったのだ。「そ、そんな……! 銃が効かないなんて……!」 それは信じられない光景だった。 僕は前回の異世界でも銃を獲得していた。 銃を手にすると、とても頼もしかった。 そして銃があればゴブリンくらい、簡単に倒せると思っていた。 すぐにでもゴブリンを見つけ、ゴブリンに向かって銃の威力を確かめたいと思っていたが、折悪しく、僕が銃を手にしてから、なかなかゴブリンと戦闘する機会がなく、銃の威力を確かめられずにいたが、あの時、僕がゴブリンと戦闘しなかったことは、幸運だったのかもしれない。 僕は思い違いをしていた。 銃はゴブリンに通用しない。 ゴブリンの皮膚はぶ厚いゴムタイヤのように頑丈で、銃の弾で貫通することはできないようだった。 ゴブリンは今度は僕に襲い掛かってきた。 銃は効かなかったが、弾丸で撃たれたこと自体は痛かったらしく、ゴ
悲鳴が聞こえる。 僕は飛び起きた。 ここは草原。 辺りは真っ暗だ。「ここが異世界……? 天国じゃなくて?」 状況がわからず僕は狼狽える。 その間にも周囲からは次々と悲鳴が沸き上がった。 詳しい状況はわからないが、僕と同じく、「《穴》」に全身を蝕まれ、消失したと思われた戦友が、周囲にたくさんいるようだった。 そしてあちこちからあがる悲鳴。 どうやら戦友たちは何かに襲われ、何が起っているのかわからないが、相当数の「犠牲者」が出ているようだ。「《天使》の「《審判》」が、始まっている。ここは異世界なんだ。でも前回は一日の「初心者保護期間」があったはず。今回はその猶予がないのか?」 僕は前回と違う様子に困惑する。 しかし、僕はすぐに今回、どうして前回と様子が違うのかの答えに思い当たった。「《天使》を怒らせたからだ。《天使》専任のリポーターが、実は《戦争》の《派閥》で、正体を隠して《天使》に核ミサイルを撃ち込もうとしたから、その罰で僕たちは「初心者保護期間」なしで異世界に転移させられたんだ……」 僕は状況がわかったが、呆然としてしまう。 前回、僕は異世界でスライムやゴブリンと戦った。 ゲームでは、簡単に倒せる雑魚モンスターとして登場するスライムやゴブリンだったが、実際はとても強く、異世界に転移してすぐの自分たちでは太刀打ちできない相手だった。 暗くて見えないが、恐らく、僕たちは今、そのモンスターたちに襲われている。 次々と沸き上がる悲鳴。 その悲鳴の一つ一つが戦友の断末魔なのだ。「ライトだッ! ライトを点けろッ!」 誰かが叫ぶ。 その声は悲鳴のようだったが、やがてすぐに本当の悲鳴に変わった。 それは断末魔でもあり、彼も「犠牲」になったようだ。 僕は彼の死を無駄にしない為にも、大急ぎで自分の身体を確かめる。 すると───。「あ……! 僕が改造したマグライト照明付きハンドガンだ!」 僕は自分のポケットに、頼もしい「相棒」があることに気付く。 僕はすぐにマグライトのスイッチを入れた。 暗闇を切り裂くように、マグライトの力強い光
「《穴》」に全身を蝕まれた僕は暗闇の中にいるようだった。 どうしてこんな所にいるのかはわからない。 でも、不意に目の前に最愛の妹・虹心が現れる。『虹心ッ!』 僕は喜び、そして叫ぶ。 会いたくて会いたくて仕方がなかった妹がまた目の前にいるんだ。 こんな状況になれば、誰だって叫ぶよね。 僕は駆け出し、妹に手を伸ばす。 しかし───。『お、お兄ちゃんッ……!』『虹心ッ!』 僕の目の前で妹が「《穴》」に蝕まれる。『助けてッ! お兄ちゃんッ! 私が消えちゃうッ!』 妹は目に涙を浮かべ、助けを求めて僕に手を伸ばす。『そうはさせないッ! 僕の手を掴むんだ、虹心ッ!』 その手を掴もうと、僕も手を伸ばす。 しかし、僕の伸ばした手が妹を掴む間もなく、虹心は「《穴》」に掻き消されてしまった。 僕は失った妹を探して、必死に暗闇をまさぐる。 しかし、その手は虚しく空を掴むばかりだった。『どうして虹心がッ! 僕の妹がこんな目にッ!』 怒りと喪失感で半狂乱となった僕は、腕を振り回して暗闇を掻きむしる。『うわッ! な、なんだこれはッ!?』 僕は自分の異変に気づく。 それは僕の身体にも「《穴》」が現れ、広がっていくという異変だった。『うわーッ!』 さらに僕は自分の足元にあった床がなくなり、崩落するように落下する浮遊感を覚える。「傑くん! しっかりして! 傑くん!」 誰かが僕を呼んでいる。 同時に僕は大きく身体を揺すられる。 尚も暗闇を落下し続ける僕は、不意に全身を草地の地面に受け止められる。 ドスンという衝撃が全身に響いた。 驚いた僕は目を見開いて叫んだ。「うわーッ!」「大丈夫よ、
「終わりましたか?」 一方の《天使》が、もう一方の《天使》に尋ねる。「完了した。十六歳の若者全員と、この場にいることがふさわしくない者を消し去った」「消し去った……。彼らはこの世から消えてなくなってしまったのでしょうか?」「この世から消えてなくなったという点では正しい。だが、死んだわけではない。転移の方法は違うが、彼らは異世界に旅立った。それだけだ」「そうですか。異世界に旅立ちましたか。しかし、この「《穴》」による転移方法だと、彼らにルールを科せる事ができません。具体的には、異世界に転移して、最初の一日だけはモンスターに襲われないように「初心者保護期間」を儲けていましたが、その恩恵を彼らは受けることができなくなってしまいました」「それであれば、彼らが異世界で生き残り、最初のゴールですら辿り着くことは難しいかもしれないな」「ええ。恐らくそうなるでしょう。たった一人でさえ生き残れるかどうか」「そうだな。それ程までに異世界は、この世界の者にとっては生き残ることが過酷な環境だ」 二柱の《天使》は、異世界に転移した者たちが生き残れないことを残念に思い、溜息をついたように思えた。 しかし、それはあくまで思えただけで、実際には、《天使》は微動だにせず、ただその場に神々しく在り続けるだけだったが。「しかし、希望はありそうですね」「そうだな。希望はありそうだ」「この世界には数多の多次元宇宙───つまり並行世界があります」「そう。人々が日々の行動で一つの選択をする度に、選んだ選択の世界と、選ばなかった選択の世界が誕生し、二つの世界は別々の道を歩み始める」「我々のようにあらゆる選択肢と、あらゆる未来を「共有」して今を生きられない人類にとって、人生とはたった一度の冒険で、やり直したり、別の世界の自分と入れ替わることはできない」「ですが「修復者」は違う。修復者は、選択によって分裂し、別々の未来を歩み始めた二つの世界」を、また一つの世界に「修復」することができる」「選択を迫られた際、選択を選んだ世界と、選ばなかった世界を同時に生きることができる者……」「しかも、選択は一つ二つではない。一人の人間が、日々、何百、何千と選択している」「その選択の数だけ世界が誕生し、分裂して別々







